道満晴明『ぱら☆いぞ1』

ぱら☆いぞ1 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

ぱら☆いぞ1 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

フクイタクミケルベロス』の紹介を書いていたら、あまりに好きなものについて書く困難で身動きが取れなくなったので、気楽に書ける対象(もちろん十分好きだが)についてサラッと書いて気分転換することに。
性本能と水爆戦 征服 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

性本能と水爆戦 征服 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

最後の性本能と水爆戦 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

最後の性本能と水爆戦 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

道満晴明といえば、まずは『性本能と水爆戦』シリーズ。掲載誌がエロマンガ誌とは思えないライトで無機的な性表現(ただし『快楽天』誌はかのSABEのホームグラウンドでもあり、元々エロのみを求めない懐の深い雑誌である)を特徴とし、SF/ファンタジー色の濃い不条理な設定と、そこに時折差し込まれる抒情的な描写の絶妙なバランスが、癖はあるが可愛らしい絵柄と相まって忘れ難い印象を残す。そう、彼は周回遅れの吾妻ひでおチルドレンなのだ。もちろん世代が違えば作風も違い、取り返しのつかないカタストロフを経た後の底知れない諦観は、阪神・淡路大震災オウム真理教事件以降の世代に特有のものだろう。2010年ベストの1冊に挙げた『ヴォイニッチホテル』は、『性本能と水爆戦』シリーズが20頁前後の通常の短篇から4頁のショートショートへと切り詰められる過程で獲得することになった表現の密度を、連作短篇形式に拡張して多層的に積み重ねた集大成的な傑作である(と、1巻時点で確信できる)。
阿佐谷腐れ酢学園 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

阿佐谷腐れ酢学園 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

さべちん (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

さべちん (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

ネオ・アズマニア (1) (ハヤカワコミック文庫 (JA867))

ネオ・アズマニア (1) (ハヤカワコミック文庫 (JA867))

ときめきアリス―定本 (LEGEND ARCHIVES―COMICS)

ときめきアリス―定本 (LEGEND ARCHIVES―COMICS)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

他方本作は、独特な絵柄は半分程度に抑え、残り半分は萌えマンガ風の癖のない絵柄で埋められている。そもそもタイトルからして『らき☆すた』のパロディであり、萌え4コマブームを意識しているのは明らかだ。しかし『性本能と水爆戦』シリーズの後継連載であり、掲載誌の要請でこうなったはずはない。内容はひたすら下ネタ、1コマ目から淫語を連呼し、最後のコマで妙な方向に外して笑いを取るようなパターンが典型的。下ネタは萌え4コマの悪意あるパロディの素材として用いられているだけで、いやらしさは微塵もない。そもそも萌え4コマとは思えないくらいきちんと落ちる(あるいは初期いがらしみきお並みに不条理に徹する)ことが多く、この点でもアンチ萌え4コマを貫いている。遅れてきた吾妻チルドレンによる、ドライなアンチ萌えマンガ。作中の時間はリアルタイムで進行し、2007年冬の連載開始時に高校1年生だったキャラクターは、この巻を締めくくる2010年春の回できちんと高校を卒業するが、これは同時期に連載された『けいおん!』のリアルタイム進行を意識していたのかもしれない。
らき☆すた (1) (単行本コミックス)

らき☆すた (1) (単行本コミックス)

けいおん! (1) (まんがタイムKRコミックス)

けいおん! (1) (まんがタイムKRコミックス)

ただし2009年に入り、アンパンマンの最低のパロディ「菓子パン子さんとバタ夫くん」シリーズが始まり、病床でひたすら淫語を喋り続ける「弱田さん」シリーズが主人公の死で幕を閉じた頃から、道満作品本来の持ち味である抒情性が漂い始めた。『けいおん!』のアニメ化に伴う萌え4コマブームのピークに、ブームの頂点で突如はじけるバブルの終わりを嗅ぎ取り、アンチに徹することを止めて次のフェーズに移行したのだろう。連載は現在も続いており、今後の展開が楽しみだ。
ぱら☆いぞ1 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

ぱら☆いぞ1 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)